2012年06月28日

3連動地震の想定を防災に生かす

時論公論 『3連動地震の想定を防災に生かす』2012年04月05日 (木)

山﨑 登  解説委員

《前説》
 東海地方から西の地方で起きる最大級の巨大地震について検討している国の検討会が、それぞれの地域を襲う震度と津波の高さの想定を、先週の土曜日に発表しました。従来の想定を超える激しい揺れが広い範囲を襲うことや東日本大震災に匹敵する津波の高さに、自治体や住民に衝撃が広がっています。また、その前日には首都直下地震でも震度7の激しい揺れの地域が広がる可能性があることが発表されました。そこで、今晩は、こうした新しい想定をどう受け止め、どのように防災に活かしていけばいいかを考えます。

j120405_mado.jpg

《3連動地震の新たな震度と津波の想定》

 東海から西日本にかけての太平洋側では、南海トラフと呼ばれる海底の溝に沿って、100年から150年ほどの間隔で、東海・東南海・南海地震という、いずれもマグニチュード8クラスの地震が繰り返し起きてきました。これら3つの地震は、過去に連動して同時に起きたことがあって、国の中央防災会議は、2003年に、今後同時に発生した場合にはマグニチュードが8.7の巨大地震になる可能性があると想定しました。
 
ところが最近の地質調査などの研究から、1000年以上古い時代にはるかに大きな津波が襲っていたことがわかってきました。また東日本大震災の分析から、巨大地震が起きる時には、周辺の複数の震源域も同時に破壊されることや、津波をさらに高くする大きな滑りが海底で発生することなどがわかってきました。
そうした成果を踏まえてマグニチュードを9.1と東日本大震災並みに見直して発表されたのが、今回の想定です。

j120405_01_0.jpg

 
これまでの想定と比較すると、震度7の激しい揺れになる地域は名古屋市、静岡市、和歌山市など10県153市町村に広がり、これまでの4倍以上に増えました。また震度6弱以上の地域も24府県687市町村となって、全国の市町村の3分の1以上です。

j120405_01_2.jpg

また20メートル以上の津波が想定される地域は、これまではありませんでしたが、今回は6都県23市町村に、また10メートル以上の津波は11都県の90市町村に増えました。さらに静岡県や高知県などでは、早ければ2分ほどで津波が襲ってくるとしています。

j120405_02_1.jpg

《被害想定の意味が変わった》

 これほど大きな地震や津波の想定が発表されたのは、東日本大震災をきっかけに、備えるべき地震に対する考え方が変わったからです。これまでは『過去に起きたことがわかっていて、今後も起きる恐れがある地震』を想定してきました。このためこれまでの想定は、過去の地震の震度と津波を再現することに力点がおかれてきました。

しかし、東日本大震災は過去に例のない超巨大地震で、想定を超える大津波が発生しました。
そこで、今回は次の大きな地震がどこで発生しても“想定外”ということがないように、『科学的に考えられる最大の地震と津波』を想定しました。つまり、従来とは違った前提に立った想定だということがいえます。 

j120405_03.jpg

阪神・淡路大震災以降に進められてきた防災対策の手法は、全国の地盤のデータや震度と住宅の倒壊のデータなどを使って、今後、立ち向かうべき地震と被害を具体的に想定し、そこから明らかになった建物の耐震化や津波の避難態勢の整備を進めることでした。そのために、例えば今後10年で住宅の耐震化を90%に高めるなどといった数値目標が立てられ、対策が進められてきました。

しかし今回発表された想定は、震度でいえば、大きな揺れをもたらす破壊の領域が震源域の中で東側に寄った場合、西側に寄った場合、陸側に寄った場合など5つのケースで計算し、その最大震度を全て重ね合わせたものです。また津波の高さも11の破壊のケースを計算し、最大値を重ねています。

つまり、それぞれの地域で、現在の科学で考え得る最大の震度と津波の高さを示したものです。この考え方は、首都直下地震の震度予測でも変わりません。したがって全ての地域で最大の震度と最大の津波が襲ってくる地震が発生することは、まず考えられないということができます。

j120405_04_0.jpg

今回の想定から読み取るべき大事なことは、3連動地震が起きた際には、東海から西日本の広い範囲で震度6弱から7の激しい揺れになる恐れがあって、関東から九州までの太平洋沿岸を東日本大震災並みの巨大津波が襲ってくる可能性があることです。しかも東日本大震災よりも、はるかに早く津波がやってくるという警告です。

j120405_04_1.jpg

《想定をどう防災に活かすか》

 では、この想定をどう防災に活かしていけばいいでしょうか。
想定の立て方が変わったということは、それによる防災の考え方や対策も変えなくてはいけません。3つの重要な視点を指摘したいとい思います。

j120405_05.jpg

1. 一つは、今回の想定は、次に起きる地震を予測したものでも、こうした地震が切迫しているわけでもないということを、国は丁寧に説明する必要があります。今回の想定をみて、自治体の防災担当者の中には、対策のとりようがない想定に諦めてしまう防災機関の担当者や住民がでかねないと心配している人がいました。しかし新しい想定が目指すのは、それぞれの地域を襲う恐れがある最大級の揺れと津波のレ

ベルを示すことです。大切なことは、堤防があるから大丈夫とか過去にこれ以上の津波は来なかったなどといった思い込みをなくして、もっと大きな津波がくる可能性があることを踏まえて、少しでも被害を減らすように考えていくことです。

2. 2つめは、従来よりも息の長い対策で、地域の安全性を高める土地利用のあり方や町作りに取り組むことです。これまでの想定への対策は、どちらかといえば短期的に防災の効果が上がるものに重点が置かれてきました。静岡県沼津市の沿岸の地区では、将来の東海地震

の津波に備えて、被災の前に集団で高台移転を目指す動きがでていますが、わずかな時間で大津波が襲ってくる恐れがある地域では、ある程度時間がかかっても高台移転をしたり、これまでのように一つの避難場所ですませるのではなく、状況に応じてさらに高い場所に避難場所を確保できる長期的な地域作りを考えて欲しいと思います。東日本大震災並みの巨大津波は、避難意以外に有効な対策はないからです。

3. 3つめは、これまで進めてきた対策は引き続き進めていく必要があるということです。宮城県沖地震の発生確率が99%あるとされた宮城県では、精力的に小中学校の耐震化を進め、東日本大震災前の耐震化率は、全国平均の73.3%を大きく上回る93.5%まで高めていました。その結果、多くの小中学校が津波避難ビルになったり、避難所として活用できたといいます。また、7年にわたって小中学校での津

波防災教育を進め、訓練を繰り返してきた岩手県釜石市では、多くの小中学生が決められた避難場所より、さらに高いところを目指した避難をして助かりました。つまり住宅など建物の耐震化、家具の固定、それに津波の避難態勢の整備などは、想定を超える巨大地震と大津波の被害を減らすためにも大きな力になったのです。
 
《まとめ》
 国は、今後、人的な被害や建物の被害などの想定をまとめ、必要な対策を検討する予定です。また多くの自治体で、今回の想定を受けて防災対策の見直しが進められることになりますが、これまでと性格の違った想定をどう防災に活かしていくかについても国は検討を進め、自治体や地域の取り組みを後押しして欲しいと思います。
 
( 山崎 登 解説委員)


3連動地震の想定を防災に生かす


同じカテゴリー(三連動大地震、大津波)の記事
 南海トラフ巨大地震 消える市町村145万世帯(1) (2017-04-21 07:12)
 南海トラフ巨大地震が他の大地震と連動する恐れ!発生から3日間は400倍、南海トラフ後も警戒が必要に! (2017-04-14 07:04)
 弥生時代後期に突如として消えた、登呂遺跡(静岡市)。その原因は、駿河湾各地を襲った大津波の可能性が高い (2016-11-22 13:42)
 村井教授が緊急予測、今年後半の南海トラフ大地震を警告 (2014-09-19 07:42)
 「32万人が死亡」予測された南海トラフ地震 (2014-06-10 12:16)
 切迫、南海トラフ地震と首都直下地震で日本の終焉か!? (2014-03-24 08:46)
 三連動大地震「春までに起きる可能性」測量学権威が警告 (2014-03-12 07:52)
 千葉県東方沖大地震等(複数)の避難準備等に付いて (2014-03-05 07:47)
 切迫、三連動大地震等で壊滅的な被害地域と安全な移住地域 (2014-02-27 19:35)
 32万人が死亡、南海トラフ地震、政府も言わぬ本当の被害 (2013-10-02 07:31)
 津波が襲う“地名”とは? 南海トラフ「隠れた危険エリア」 (2013-07-12 06:57)
 巨大地震で最大32万人超の犠牲を想定 (2012-11-07 07:38)
 津波の痕跡2000年分 尾鷲・須賀利大池の掘削調査  (2012-10-22 08:08)
 宝永地震「4連動」「5連動」説 富士山噴火も (2012-08-22 12:42)
 首都圏直下型大地震と三連動大地震は同時期に発生か? (2012-07-09 19:53)
 東京直下大地震と三連動大地震と西日本沈没 (2012-07-02 15:04)
 津波から命守る策を 古村・東大教授3連動地震語る (2012-07-01 07:50)
 三連動大地震と天変地異の時期 (2012-06-21 10:49)
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。
削除
3連動地震の想定を防災に生かす
    コメント(0)